全身性エリテマトーデス(SLE)におけるプラケニルの位置づけ
健歩薬局では近くにあるしのぶ病院やさとう眼科のほか、様々な病院・診療科から処方を受け付けています。
最近、全身性エリテマトーデスと診断されるかたが数名いて病気について勉強する機会がありましたのでご紹介させていただきます。
※お薬は医師が症状や検査値によって選ばれています。全員が個別ケースですのでもしお薬について疑問がある時は主治医やかかりつけの薬剤師に相談してみてください。
全身性エリテマトーデスとは
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)とは全身の様々な場所や臓器に多彩な炎症症状を引き起こす病気です。原因はわかっておりませんが、免疫の異常が一つの理由だと考えられています。
日本全国に約6~10万人の患者さんがいるとされ、2019年に難病の申請をしている方は61,835人に上りますが、申請していない方や医療機関を受診していない方などを含めるとこの2倍入ると推定されます。
男女比は1:9ほどで圧倒的に女性が多く、10代~30代と妊娠可能年齢に多いのも特徴です。
症状としては、発熱や全身倦怠感などの全身症状、手や指が腫れて痛くなる関節症状、頬にできる赤い発疹をはじめとした皮膚症状、日光過敏症、口内炎、脱毛、腎臓や神経精神症状などの臓器障害など様々なものがあります。
治療薬はプレドニンなどのステロイド、アザチオプリンやシクロフォスファミドなどの免疫抑制薬、今回フォーカスを充てる抗マラリア薬であるプラケニル、最近注目されている生物学的製剤に分類されるベンリスタなど様々なものがあります。
プラケニルってどんな薬?
1950年に開発された古い薬で、海外ではSLE、皮膚エリテマトーデス(CLE)、関節リウマチ(日本では使われてません)の標準治療として使われているそうです。1991年にランダム化比較試験で再燃リスクの低下が示され、2000年代より多くの研究で臓器障害発生リスクの低下、死亡リスクの低下、血栓症リスクの低下、感染症リスクの低下など次々に報告されています。
日本は発売が遅れていまして、2015年から開発が行われて使用できるようになっています。
プラケニルを販売している旭化成ファーマが特設サイトも作っていますので、興味がある方はそちらもご覧ください。
ガイドラインにはなんて書いてある?

医師が病気の治療を考えるにあたり参考にする診療ガイドライン。全身性エリテマトーデスではリウマチ学会が中心になり、小児リウマチ学会・腎臓学会・皮膚科学会・臨床免疫学会といった様々な専門家が集まり過去の治療データを総合して推奨する治療方法をまとめているものです。(一般の人でも購入可能です)
全体的な治療方針とプラケニル(抗マラリア薬)の位置づけ
ガイドラインには治療薬の使い方というのが図式に示されています。

上記については全身性エリテマトーデスと暮らすヒントというホームページを参照にしてください。
上記のように、プラケニルはSLEと診断されたすべての患者さんに飲んでいただくよう検討するといったかなり勧められている薬であることがわかります。
プラケニルはどのような人に使うべきか?
ガイドラインはクリニカルクエスチョン(CQ)方式と言って、よくある質問→模範解答といった流れで記載があります。
プラケニルについてみてみましょう。
CQ40 SLEに対してヒドロキシクロロキン(プラケニル)をどう使うか
①SLEの皮膚症状(エビデンスレベルA)関節症状(エビデンスレベルB)腎症(エビデンスレベルC)を改善させる可能性があり、使用を考慮する
②SLEの再発抑制に有用で、新規臓器病変の抑制や生命予後改善効果の可能性があるためすべてのSLE患者で使用を考慮する(エビデンスレベルⅭ)
③長期使用により網膜症が見られる可能性があり、定期的な眼科診察を推奨する(エビデンスレベルC)
全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019より一部を改変
ガイドラインによく出るエビデンスレベル(根拠の確かさ)ですが、ざっくり以下の感じです。
- エビデンスレベルA:様々な研究結果もあり根拠もあり結果も出ているからすごく勧める
- エビデンスレベルB:様々な研究結果があるが、ものによっては偏りありそうだからAほどではない
- エビデンスレベルC:様々な研究結果があるが、Bほどではない
- エビデンスレベルD:数例に効いたという報告や専門の先生が良いと言っている程度。多くの人に認められた結果ではない
Aは満場一致でおすすめするし、だんだん信憑性が下がっていくイメージです。
上記をみてみると、皮膚症状がある人には飲むと良い可能性が非常に高いですし、生命予後改善効果も期待できることから副作用がない限りはなるべく服用したほうが良いのではないかと思います。
実際に医師・薬剤師向けの講演会を拝聴した時も演者の先生が「生命予後改善効果が期待できるんだから患者さんに説明して飲んでもらっている!」とおっしゃっていました。
臨床試験での結果をみてみましょう
医療関係者向けの資料に製品情報概要というものがあります。その中には発売前に患者さんに飲んでもらいどれくらい効果があったのかを示したグラフがあり下記の通りになっています。

緑の線がプラケニルを飲み続けている人、灰色の線が初めはプラセボ(偽薬)を飲んでいて16週目からプラケニルを飲み始めた人の症状を表しています。
CLASIスコアというのはアトピー性皮膚炎や乾癬などの症状の度合いを示すツールです。活動性スコアとして「紅斑」「鱗屑・肥厚」「粘膜症状」「脱毛」、慢性病変スコアとして「色素異常」「瘢痕形成・萎縮・脂肪織炎」「頭部瘢痕性脱毛」の 3 項目から構成され数字が大きいほど症状が悪いとされています。
上記のグラフを見てみると、4週間位は違いが見られなかったのですが8週間・16週間と飲むにしたがってプラケニルを飲んでいるほうが改善しています。
16週間たった時に全員にプラケニルを飲んでもらったら24週後からは両方同じように改善した結果となっています。
製品情報概要ではステロイドの減量についても書かれており、飲み始めて52週間でプレドニゾロンが平均8mgくらいだったのが7mgくらいまで減らすことができたという報告もありました。
注意しなければならないプラケニルの副作用
網膜症
プラケニルを服用している人は少なくとも年に1回は眼科での検査、下記の項目に該当する人は半年ごとなどのペースでの受診を推奨されています。
- プラケニルの投与量が200gを超えた患者(身長によりますが3-5年飲み続けている人)
- 高齢者
- 肝機能障害または腎機能障害患者
- 視力障害のある患者、SLE網膜症患者、投与後に眼科検査以上を発症した患者
なぜ眼科受診が必要かというと添付文書という医療関係者が一番の参考になる『薬の取り扱い説明書』の一番初めに警告として網膜症が書いてあるくらい注意しなければならない副作用だからです。

網膜症は発症してそのままプラケニルを飲み続けると視野が狭くなってしまいますが、早めの検査を行い兆候がある時点でプラケニルを中止すれば視機能の低下を防げるとのことです。眼科の先生もブログで注意喚起されています。
日本眼科学会からは『ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き』、日本皮膚科学会からも『ヒドロキシクロロキン適正使用の手引き』と各団体から注意喚起のための資料も出ておりますので気になる方は目を通してみてください。
プラケニルを発売している旭化成ファーマが『眼科検診リマインドプログラム』という定期的に手紙を送ってくれるサポートも行っております。
このようなサービスを利用して眼科受診は既定の回数を必ず受けましょう。
下痢などの消化器症状
副作用の中で一番多いのは下痢などの消化器症状です。添付文書では5%以上の頻度で起きており、システマティックレビューという様々な研究結果を分析した結果では10%に認められるとのことです。
ただ、減量や中止することにより対処できることが多いとも書いてあります。
先日聞いた講演会では「下痢の場合は中止し、落ち着いたら再開する。」といった服用方法を患者さんに勧めているとのことでした。
その他注意すべき副作用
■薬疹と皮膚粘膜眼症候群(スティーブンスジョンソン症候群)
→皮膚に起きる副作用です。起きたら重大な副作用ですので飲み始めて皮膚の症状が悪化するなど異変があったら主治医に相談しましょう。
■低血糖
→生あくびや吐き気、頭痛などの症状が低血糖のサインの可能性があります。糖分(ブドウ糖や砂糖)を摂取して対処しましょう。
まとめ
プラケニルについて、臨床試験結果から副作用までご紹介させていただきました。
試験結果をみるととくに皮膚症状がある患者さんにはエビデンスレベルAとされています。網膜症や消化器症状など副作用は報告されていますが、多くの場合は眼科を診察したり中止したりして対処可能なものとなっております。
SLEやCLEと診断されている方はもしかしたら治療の選択肢の一つとして主治医と相談していただければと思います。